演奏家の妻である妊婦が癌を発症していることがわかり、そこから子供を産むのか、治療のするか、その逡巡の合間に仏教の説話である「月のウサギ」の話が大きな影響を持って書かれる不思議なお話。
インドの上流階級の話なのに仏教っておかしくないか?と思っていたら、スリランカの映画だった。スリランカは人口の約70%が仏教徒なんだそうで納得。日本の仏教とは違うところもあるだろう(日本でも宗派によって大分違うけど)が、「月のウサギ」の寓話は日本でも知られてるので、戸惑うことなく観られる。
「テーブルの横」「ソファの正面」「ベットの前」「庭」などのロケーションで、「演奏したり」「食事をしたり」「会話をしたり」「考え事をしたり」という行動をほぼ固定カメラで映していく不思議なカメラワークで、経過を淡々と追っていく。「癌の告知や治療をどうするのか」「癌治療をしないといけないのに子供を産むのか」などについて家族間や患者と医師間で起こりえる葛藤描写はあまりなく、個人が内面に従って決定していくように見える点も非常に不思議。もっと個々人の主張がぶつかり合ってもいいのではと感じるが、スリランカってそういう宗教観なのだろうか?
タイトルの原題は「Asu」。作中で「日の出」のことだと掲示されるので邦題は「Asu:日の出」とわかりやすくしたのだろう。ただ、太陽より月に対する言及や描写の方が多くて、タイトルに違和感を感じる。しかし「月の献身があることで日の出がある」という意味づけなのかも。昨今は虐げられる女性が元気に自己決定をしたり、復讐したりする映画が多いが、 献身することを自己決定するという変化球。全くノリが違うが「最後の決闘裁判」も女性にフォーカスを当てた変化球作品で見応えあるのでオススメ。
作品の直接的評価ではないが、東京国際映画祭での紹介文は観客に観ようという気を起こさせないのでちょっと勿体ない。
幸せな日々を送る妊娠中の妻に癌が見つかる。夫の説得も聞かず、子供を守るべく癌治療を拒み続けるが、自身は衰弱していく。新鋭サンジ―ワ監督(『バーニング・バード』/東京フィルメックス2017審査員特別賞)第3作。
【ASU:日の出】| 第34回東京国際映画祭(2021)
あと余談になるが、旦那の演奏機材(キーボードかシンセサイザー)が始めはRolandだったのに、後半YAMAHAになるのは何かの意図があるのだろうか?
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