皮膚を売った男@第33回東京国際映画祭 2020/11/7

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昨年(2020年)の東京国際映画祭で観賞していたのだが、2021年11月にオンライン試写で観て、その間に関連しそうな作品をいろいろ観ていたことも含めてレビューしようと思う。

映画のストーリーはこんな感じ。

シリア難民のサムは、偶然出会った芸術家からある提案を受ける。それは、大金と自由を手に入れる代わりに、背中にタトゥーを施し彼自身が“アート作品”になることだった。美術館に展示され世界を自由に行き来できるようになったサムは、国境を越え離れ離れになっていた恋人に会いにいく―しかし、思いもよらない事態が次々と巻き起こり、次第に精神的に追い詰められてゆく。世界中から注目されるアート作品“サム”を待ち受ける運命とは…。

映画『皮膚を売った男』オフィシャルサイト

中東(アフガニスタン)からの難民を題材にしているドキュメンタリー「ミッドナイト・トラベラー」、シリアを題材したドキュメンタリーである「ラッカは静かに虐殺されている」、シリアで人質となったカメラマンの実話「ある人質 生還までの398日」などを観た経験もあり、主人公が難民化した流れは「ありえるかもなぁ」と感じるが、行動や感情表現にいまいち切迫感が感じられない。というのが観賞一度目の正直な感情であった。

しかし時間を置いてみると、国から逃げなければならなくなること、難民化すること、もっと言うと「死ぬ」こと自体が非日常ではない感覚なのかもしれないと捉え直すと変でもない。難民という記号ではない、難民となってしまった男が、芸術作品となることでどう生きていくのか?それを受け取る芸術の鑑賞者側(映画にでてくる人達)と映画の観賞者側(つまり我々)に突きつけられるテーマに以前より見応えを感じる。

皮膚を売った男【予告】

また、何度か観ると劇中で取り扱われる様々なモチーフについて深読みできそうな面白さも感じる。例えば、サムが難民生活先のベイルート(レバノン)で仕事としている”ひよこの選別”は捨てられた難民が選別してるだけでも皮肉だが、「雄(男)は選ばれない、雌(女)は選ばれる。」のが物語と重なって決定的。そしてサムは例外的にアートの素材として選ばれる。選ばれることがいいことかどうかはわからないが・・・。 他にも、主要ではない登場人物たちや、個展や美術館の展示物や絵画など、皮肉たっぷりなチョイスが目白押しだ。そういえば”ひよこの選別” は最近の映画「ミナリ」でも使われたモチーフで、あちらの方がもっと直接的に言及しているが、こちらはあくまで事象としてるだけみたい。

余談になるが、レバノンではシリア難民は働けるのね。日本じゃ難民認定さえ難しいだろう。日本での難民の問題については「東京クルド」を観てみると良い。あとアートの高価格化が気になっている人には「アートのお値段」なんかも観ているといいかも。


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